「基本、使えない人間なんていない。そもそも人間に使うなんて言ってはいけない。うまく協働するコツがあるとしたら、期待しすぎないこと」。 そう語るのは、珠洲市で銭湯「海浜あみだ湯」(以下あみだ湯)の運営やNPO法人ガクソーで教育支援を行う新谷健太(しんや・けんた)さんだ。事業承継という大きな転機に、5人のプロボノ人材(2025年12月現在)をパズルのように配置し、膨大な書類整理やリサーチを驚くほどのスピードで進めていった。 新谷さんが考える、都会のプロボノたちの力を引き出し、事業の潤滑油にするための「使う側」のマインドセットとは? 「オフグリッドエネルギーの銭湯」実現に向けて、地域の「よろず相談」に応えながら土を耕し続ける新谷さんに話を聞いた。
取材日:2025年12月17日
[取材・構成 米谷美恵]
自分の手の届く範疇で、自分の手で土地を耕せる場所

僕は北海道の北見市という、ものすごく寒くて、碁盤の目のように整然と開拓された街で育ちました。その後、公立の金沢美術工芸大学に進学したんです。
最初に珠洲へ来たのは、大学のサークルでキャンプに来たときでした。確か2012年くらいだったと思います。そのとき、「日本の最果てに、こんな魂のこもった街があるんだ」って感動したのを覚えています。 なにに感動したかって、開発されていないから道がうねうねしているし、黒瓦の建物がきれいだし、海も山も近くて。なにより、漁師さんは魚が余ったら農家さんに回すし、農家さんは収穫したお米を漁師さんに届ける。そんなふうに循環しているコミュニティの、自然と共に生きている人たちの人柄に惚れ込んで、2017年に移住することにしました。気づけばもう9年目になります。
「移住してきてどうですか?」ってよく聞かれるんですけど、「最高です!」。 プライバシーはほぼないし、車のナンバーも車種も覚えられているような状態ですから「昨日どこそこにいただろう」なんて言われることもしょっちゅうですけど(笑) 僕はそれも含めて楽しめる方なんだと思います。自分の手の届く範疇で、自分の手で土地を耕せる感じがすごくいいんです。
5人のプロボノを「適材適所」で当てはめる
2025年中には「あみだ湯」の事業承継を完了させ、建物の権利と経営権がすべて我々に移る予定でした。それに伴い、法人設立の手続きや生業再建補助金の申請、新規事業として検討していたランドリーサービスのリサーチなど、やらなければならないことが山積みだったんです。そこで、「復複プロジェクト(能登復興×複業プロジェクト)」を通じてプロボノを募集することにしました。
プロボノ募集には12人ほどの応募があったんですが、一人ずつミーティングをやる時間的な余裕がなかったので、書類選考の段階でまず5人に絞らせてもらいました。
5人にお願いした役割は下記のとおりですが、ある意味、完全に「パズル」でした。
元々つながりがあって我々のことをわかってくれている人 → 法人設立に伴う諸々の書類制作
布団の会社に勤めていて、新規事業の立ち上げ経験がある人 → あみだ湯の事業承継後に展開したいランドリーサービスのリサーチ
東京でM&Aや事業承継の専門会社をやっている人 → 一番大きな補助金である「生業再建補助金」に必要な書類のまとめやヒアリング
デジタルに強い大学の教授 → あみだ湯内のシフト・在庫管理、To Doリストの整理についてLINEを送るとスプレッドシートに反映されるような無料システムの構築
司法書士 → 借地であるあみだ湯の土地の権利関係解決に向けてアドバイス
僕のなかには、やりたい方向性やアイデアのストックがいくつかあって、そこに「対応しそうな人、特性が合いそうな人」をパズルのように当てはめていきました。自分のなかの「やりたいこと一つ」に対して募集をかけてしまうと、相手の特性とズレたときにうまくいかないイメージがあるんですね。
期待しすぎない。使えない人間なんていない
たまに「プロボノをうまく使えない」という話を聞くことがあります。でも、それは「使う側」の問題だと思うんです。基本、使えない人間なんていませんから。そもそも人間を使うなんて思ってもいないですけど。何のスキルもなくて、体が動かなくて、パソコンが使えなくても、この界隈だったらできることは何かしらあります。
うまく協働するコツがあるとしたら、「期待しすぎないこと」なんじゃないですかね。
僕の例でいうと、プロボノ人材に「何百万も稼ぐ事業を立ち上げよう」などは期待していなくて、その前段階にある書類整理だったり、リサーチだったり、設計だったりを一緒にやってくれる人として関わってもらっています。
生業再建補助金にしても事業承継にしても、必要な書類を調べて、ダウンロードして、必要項目を洗い出して、どこから持ってくればいいか……なんていう作業を一人でやるとなると膨大な時間と労力がかかってまあまあ大変なんです。だから僕が考えていることを「実現するためのパーツ」をプロボノ人材にやってもらっている感覚です。つまり、こちらがちゃんと考えられていなければ、その先のパーツを渡せないということです。
ビジネスの関係だったら、一方はお金をいっぱいもらいたいし、一方はなるべく安く済ませたいから、合理的な結果をお互いにせめぎあって、ある種の政治的な関係が生まれてしまいます。震災があったことも大きいかもしれませんが、プロボノは「関わりやできること」がないかと探してくれている人たちです。
そんなふうに向き合える関係だからこそ、都市部の人たちにとっても地方の生活サービスや事業承継のリアルを新鮮に感じられるし、僕らもいろんな知見を手に入れられる。すごくいい関係だなと思います。
頼まれたことに応えて、土を耕し続ける

事業承継が終われば、お金の使い方や投資先、ボランティアやアルバイトも含めた内部の整理もできるようになります。
今の一番大きな目標は、電気・水道のインフラから独立して自給できる「オフグリッドエネルギーの銭湯」を目指すことです。これは完全に、能登半島地震と、その後も続くであろう日本の災害を見据えるなかで考えたこと。災害が起きたとき、いざというときにもみんなが不安なく利用できる、災害に強いお風呂を作りたい。もしやり切れたら、完全オフグリッドの銭湯はここが日本初になるんじゃないかと思います。

あみだ湯以外にも、ゲストハウスをやっていたり、それ以外にも所有する物件がいくつかあったりします。それは元々のオーナーさんが「これからの珠洲のために、若い人たちにぜひ活用してほしい」と託してくださったもの。最近では、震災で会員が3割減ってしまった珠洲市文化協会の会長さんから「伝統芸能を絶やさずに、子どもたちとやっていきたい」と相談も受けています。
僕自身のアイデアが次々わいてくるというよりは、まちの人からのそういう「よろず相談」を受けて応えているうちに活動が広がっていった感じです。
NPO法人ガクソーでの教育支援も含めて、子どもたちが「このまちで生まれて良かった」「生きている世界はとても良い」と思えるような種をまいて育んでいくための場所と環境をひたすら整理していく。僕にとっては、ひたすら土を耕し続けているような感覚です。手が足りないからこそ、プロボノのような存在は本当にありがたいです。
取材後記
取材を通じて感じたのは、新谷さんには「人を見る力」が備わっているということ。相手に何が足りないかではなく、何を任せられるかを見る。その視点があるから「使えない人間なんていない」という言葉が、実感のこもった言葉として伝わってきます。
また、プロボノを「無料で手伝ってくれる人」として見るのではなく、一人ひとりの得意分野を見極め、自分が描く未来を形づくるピースを託していく。その一方で、「期待しすぎない」とも言い切る。その絶妙な距離感があるからこそ、プロボノたちはあますことなく自分のもてる力を発揮できるのでしょう。
復興の現場では「人手不足」がよく語られます。しかし、本当に足りないのは「人」ではなく、「力を発揮できる場所を見つける視点」なのかもしれません。
派手な成果を急ぐのではなく、人が育ち、地域が育ち、未来につながる土壌を整え続ける。そんな新谷さんの周りには、これからもまた新しい人や課題、挑戦が集まって、珠洲というまちのこれからを少しずつ形づくっていく。そんなことを思いました。




