前回の記事で、トレーラーハウスを活用した仮設店舗オープンをお知らせした、能登町の松波酒造(まつなみしゅぞう)。この春に、日本サッカー協会(JFA)の支援により、子どもたちが自由に遊べるキッズピッチがオープンしました。その経緯やその後の能登町松波の風景について、若女将・金七聖子(きんしち・せいこ)さんに伺いました。
[取材・撮影・構成 井上みゆき]
▶シロシル能登 “松波酒造”Vol.3 仮設店舗オープン! みんなが集まる、賑わいの拠点に
▶シロシル能登 松波酒造株式会社
子ども達が安心して遊べる場所をつくり、地域の賑わいを取り戻す
2026年春。松波酒造の仮設店舗として営業するトレーラーハウスの隣に、キッズピッチ<Terrace of Matsunami Noto>がオープンしました。
酒蔵の再建は、すぐ裏を流れる川の整備工事などさまざまな課題があるため、まだ先が読めないのが現状です。でも更地のままでは淋しいじゃないですか。何か地域復興に役立つ活用法はないかと考えていたところ、地元の友人を通じてJFAからお声がけいただいたのです。

子どもたちが安心して遊べるキッズピッチを設置しませんか。そんなお話しをいただいたのは2025年秋のことでした。震災以降、能登には子ども達が遊べる場所が極めて少ない状態が続いていますが、ここなら十分な広さとトレーラーハウスという拠点があり、地域住民の皆さんなど大人の目も届きます。キッズピッチは可動式、建築確認申請も不要なので、将来的な酒蔵再建の妨げにはなりません。地域の賑わいを取り戻す拠点として活用が広がればと思い、喜んでお受けしました。

実は、地域の賑わいを取り戻すためには飲食店や宿泊施設が必要だと考えていたので、「スポーツで人が集まるのか?」という思いもあったんです。でも、ここでボールを蹴っていた子どもが将来、復興した酒蔵を訪れて「ここでサッカーしとったなぁ」と笑い合っているストーリーが見えた瞬間「やります!」と手を上げていました。

みんなで力を合わせてキッズピッチを設置!
ピッチを安全に設置するためには土地が平坦であることが重要ですが、土地は公費解体したままの状態で、水平も確保できていませんでした。どうしたものかと迷っていたところ、災害ボランティア団体・OPEN JAPANさんが重機を使って整地してくださり、本当に有り難かったです。
キッズピッチを設置する当日は、元サッカー日本代表の久保竜彦さん、ラップミュージシャンのGAKU-MCさん、3×3バスケットボールの岩下達郎さんをはじめ、さまざまな人が駆けつけてくださいました。

トンボを使って丁寧に整地した上に人工芝のロールを広げて敷き、柱やパネル、ネットを組み立てて完成です。大人も子どもも、みんなで一生懸命組み立てたので、それだけで元気がでる活動になりました。

大人も子どもも気軽に集まって、自由に遊べる場所に
コートは縦12.6メートル×横9メートル。周囲がネットで囲われているので、フットサルやボール遊びができるスペースとして、いつでも誰でも自由に利用できます。人工芝を敷き詰めた地面は、ただ走り回るだけでも気持ちいいですよ。

JFAからご提供いただいたボールをトレーラーハウスで預かっているので、手ぶらで来ても大丈夫。学校帰りの子どもたちはもちろん、運動不足な大人にもぜひ使っていただきたいですね。私もン十年ぶりにゴールに向かってボールを蹴りましたが、それだけですごく爽快感がありました。

ボールの貸し出しはトレーラーハウスの営業時間に限られますが、キッズピッチはいつでも誰でも利用OK。設置から3カ月ほどたちますが、毎日のように誰かしら訪れ、遊んでいます。
キッズピッチ隣のトレーラーハウスに立ち寄ってくれる子どもたちもいるので、お茶を用意しておもてなししています。大人も子どもも、ぜひ気軽にお立ち寄りください。

取材後記
取材を通じて改めて思ったのは、賑わいを取り戻すにはまず「拠点」が有効なんだ、ということです。震災後、加越酒造(小松市)の協力で共同醸造を続けている松波酒造が仮設店舗をオープンさせたのも「地元に拠点が必要だ」と考えたからでした。実際、オープン後は、地元はもとより国内外からもお客様が訪れているそうです。

その一方で。新しい家が建ちはじめているとはいえ、能登町松波が以前のような賑わいを取り戻すにはまだ時間がかかりそうです。学校の校庭や公園に仮設住宅が建てられ、子どもたちの遊び場がなくなったことで、子どもたちの歓声が失われてしまったことも淋しさにつながっていたかもしれません。
キッズピッチのオープンから数か月がたった今。松波酒造のまわりには、毎日のように子どもたちの歓声、ときには大人の笑い声も響いています。それは賑わい復活への大きな一歩。「スポーツで人が集まるのか?」という聖子さんの疑問は杞憂だったようです。





